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電子対の概念を中学2年生に導入した授業モデルの提案 市橋 由彬 1 【要

約】

国際的には周期表と原子の構造の学習を関連づけて行う国が多いが,現行の日本の学習指導要領で は,周期表について中学 2 年生で学習し,原子の構造については中学 3 年生で学習する流れとなってい る。また,教科書に書かれている「結合の手」やイオンの説明において,高校化学の学習内容である「電 子配置」考え方が用いられる傾向がある。これについては,中学生に周期表と「電子配置」を関連づけ て指導することの難しさも指摘させており,別の学習展開が必要であると考える。よって本実践では, 中学2年生が原子モデルを周期表と関連づけて学習するとともに,原子に含まれる電子が対になって 存在することを学習すれば,「電子配置」を学習しなくても「結合の手」の考え方を本質的に理解でき るようになるかを検証した。その結果,原子の構造および原子モデルと周期表の関連づけた学習だけ では,「結合の手」の考え方を本質的に理解することは難しく,逆に生徒に混乱を生じさせてしまう可 能性があることが分かった。また,原子の構造および原子モデルと周期表の関連に加えて,「電子には 2 種類あること」,「2 種類の電子が対になっていれば安定すること」,「電子の入り方にはルールがあ ること」について学習すると,生徒はその知識をもとに「結合の手」の考え方を本質的に理解できるよ うになることが分かった。以上のことから,本実践での学習展開は生徒が原子の構造や原子のもつ「結 合の手」を本質的に理解する上で有効であると考えられる。 [キーワード]原子.分子.結合の手.電子配置.電子対 1.はじめに 令和 2 年度より実施されている中学校の学習指導 要領では,改訂に伴い多くの学習内容が学年を移行 したり追加されたりした。一方,改訂以前より学習指 導要領では周期表については 2 年生で学習し,原子 の構造については 3 年生で学習するという流れとな っている。これについて,佐藤,高橋,菊地,村上 (2006)は教科書を国際比較した上で,「周期表は,原 子の構造の学習をする時に導入している国が多いが, 原子の構造の学習以前に導入し,原子の構造やイオ ンの学習時に周期表についての学習を深めている国 もある。 」と述べている。また,「多くの場合,周期表 を使うと原子の構造がわかり,さらにそのことによ りさまざまな科学的事象の予想が可能となることも 書かれている。 」とも述べている。 武井ら(2006)も,「簡単な原子構造(原子核と電子), 原子にはいくつか種類があること,さらに,単独では 安定に存在しにくい原子が多く,電子の授受でイオ ンとなって存在していること,そしてそれらの集大 成として周期表-これは「元素の辞典」であるとい う紹介程度でいい-」と述べている。このことから, 1 奈良教育大学附属中学校

周期表の学習と原子の構造の学習を同時期に行う ことは,分子やイオンの理解につながると考えられ る。 本校で採択している啓林館の「未来へひろがるサ イエンス 2」(大矢禎一・鎌田正裕ほか 146 名,2021a) では,「物質の成り立ち」の単元内に発展として『原 子はどのように結びついて分子をつくるのか』が記 載されている。そこでは原子の価電子の中の不対電 子の数を「結合の手」という言葉で表している。一方 で,水素原子・酸素原子・窒素原子・炭素原子などの 原子の「結合の手」のみ紹介されており,原子の価電 子の中の不対電子の存在や,周期表との関連には一 切触れられていない。そのため,生徒はなぜ各々の原 子の「結合の手」の数が決まっているのかを学習し ない。また, 「未来へひろがるサイエンス 3」(大矢 禎一・鎌田正裕ほか 146 名,2021b)では,「水溶液と イオン」の単元で「原子の構造」と「陽イオンのでき 方(ナトリウム原子の例) ・陰イオンのでき方(塩素 原子の例) 」が掲載させているが,なぜナトリウム原 子は1 個の電子を失うのか,塩素原子は電子を1 個受 けとるのかという点には触れられていない。単元の 最後に発展として『原子の構造とイオンのでき方』

が掲載されているため,そこまで学習を行った生徒 はそこで初めて「電子配置」と周期表の関連を学び, 失ったり受けとったりする電子の数がどのようにし て決まるのかを知ることができる。 漆畑,長根,吉田(2014)は 2014 年 7 月に,化学基礎 を履修する愛知県高校 1 年生 199 名対象に,中学校 「イオン」の発展内容「原子と電子配置」等について 学習したか否かを調査している。その結果,「 「イオ ン」 の単元において 50.0%が原子の構造についてのみ 学習しているが,45.1%は「電子配置」およびイオンの 生成や周期表との関連まで学習している。 」と述べて いる。この結果から,50.0%の生徒は,「なぜ結合の手 の数が決まっているのか」や「なぜ失ったり受けと ったりする電子の数が決まっているのか」について, 本質的な理解ができていないことが考えられる。一 方で,45.1%はその理解を促すために,発展として高 校の学習内容である「電子配置」を学習している事 が示唆されている。 川﨑,福田,宍野,粟田,寺島(2020)は2 年生15 名に 対してオクテット則を意識して原子・分子モデルを 作成させる授業を行っているが,「電子殻数や電子配 置等の高校の学習内容を中学 2 年生に分かりやすく 説明しておく必要があり,混乱しやすいことなどが 考えられる。実際に,授業後アンケートで「途中はわ からなかった。 」と回答している生徒もいた。 」と述 べており,2 年生に対して周期表と「電子配置」を関 連づけて指導することの難しさを指摘している。 そこで本研究は,2 年生で「電子配置」の考え方を 用いずに周期表と原子の構造を関連づけて学習する 新しい学習モデルを提案することを目的とした。 2.本実践の内容 佐藤ら(2006)の調査結果より,英国,フランス,ド イツ,イタリア,スロバキア,インド,中国,台湾,イン ドネシア,アメリカの計 10 カ国では,原子の構造を 12~14 歳で学習していることが分かっている。この ことからも,2 年生で原子の構造を簡単に学習してお くことは必要だと考える。 また,佐藤ら (2006)はフランスの教科書に載って いる炭素原子の構造やナトリウムイオンの図を紹介 している。この図は中心に原子核と正電荷の数が示 され,その周りに不規則に点在する電子が絵描かれ ているだけのモデルで,非常にシンプルなものであ る。視覚的にも分かりやすいため,このモデルを活用 すれば 2 年生でも原子の構造を周期表と関連してイ メージしやすいのではないかと考える。 さらに,渡辺(2020)は「たとえば水素分子 H2 の生

成も,2 個の核(陽子)が近づく結果,「共通の楕円軌 道」を電子 2 個が回るような図に描く。それだと,「安 定化」が起こるはずはない.逆スピンの電子 2 個(電 子対)が核どうしのすき間で存在確立を高め,「糊」 のはたらきをして結合に至る…というイメージを大 ざっぱでもいいから伝えてほしい」と述べており,電 子が電子核を回るようなイメージを生徒に持たせる のではなく,逆スピンの電子 2 個(電子対)のイメー ジを持たせることの重要性を示唆している。 したがって本実践は,フランスの教科書のような シンプルな原子モデルを周期表と関連づけて学習す るとともに,原子に含まれる電子には 2 種類あるこ とと,それらが対となって存在する必要性について 学習することで,「電子配置」を学習しなくても 2 年 生が「結合の手」の考え方を本質的に理解できるよ うになるかを検証することとした。 3. 「結合の手」についての生徒の認識 生徒が「結合の手」についてどのような認識を持 っているかの実態調査を行った。調査は,奈良県内の 国立中学校 1 校の 2 年生 114 名を対象に 2 学期中間 考査直後(10 月下旬)に実施した。中間考査の範囲は 化学分野の最初から「物質が酸素と結びつく変化」 の単元までであったが,生徒は質量保存の法則まで は学習済みであった。また,生徒は「原子が結びつい てできる粒子」の単元で教科書をもとに「結合の手」 やその性質について学習しており,「物質を表す記号」 の単元で周期表を使って「1族の元素は手が1本,2 族の元素は手が2本・・・」ということのみ学習して いた。実態調査の問題は以下の通りである。 (1) 次の原子がもつ「結合の手」の数を,それぞれ数 字で答えなさい。 なお,元素記号の前に書かれて いる数字は原子番号を表しています。 ① 2He ② 6C ③ 3Li ④ 16S ⑤ 9F ⑥ 13Al ⑦ 7N ⑧ 20Ca ⑨ 18Ar (2)原子のもつ「結合の手」とは何のことを指して いますか。できるだけ具体的に書いてください。 (3)原子のもつ「結合の手」の数は,何によって決ま るのでしょうか。できるだけ具体的に書いてく ださい。 (4)なぜ貴ガスは安定しているのでしょうか。理由 をできるだけ具体的に書いてください。 4.実態調査の結果 まず,実態調査前に 2 学期中間テストの結果から 生徒を統制群(2 クラス 57 名)と実験群(2 クラス 57 名)に分けた。t 検定の両側検定の結果,両群の間

で平均値に有意な差は見られなかった (t=0.196,p>.05)。このため,両群は等質とみなせる。 実態調査問題のうち,(1)の「結合の手」の数に関 する問題における合計点(正答を 1 点,誤答を 0 点と した)の平均値を統制群と実験群とで比較した。そ の結果を表 1 に示す。t 検定の両側検定の結果,両群 の間で平均値に有意な差は見られなかった。 表1 実態調査問題(1)合計点の平均値

5.授業計画の意図と授業実践の概要 2 年生の生徒はスピン,電子軌道および混成軌道, 基底状態や励起状態などの量子化学の知識を持ち合 わせていない。そのため,本実践ではそれらの概念を 中学生でも納得できるようにかみ砕いた内容での指 導を心がけた。また,できる限り事実と齟齬が生じな いように,原子番号 1~10 までの原子(図 1)を使っ て授業実践を行うことにした。 統制群については,原子の構造および原子モデル

(2),(3),(4)については,記述内容をそれぞれ ①~⑥に分類した。その結果を表 2 に示す。 表 1 より,両群共に正答率は 4 割前後であった。 表 2 より,両群共に 7 割を超える生徒が「結合の 手」は原子が結合するために必要なものと考えてい ることが分かった。さらに「結合の手」の数が何によ って決まるかや,貴ガスがなぜ安定しているのかに ついての理由が定かでない状態であること分かった。

図 1 生徒の作図のルールと電子軌道の関係 する上での 表 2 実態調査問題(2)、(3)、(4)の記述内容の分類(%) 記述内容の

と周期表の関連のみ学習展開とした。そして,その学 習を終えた生徒が「結合の手とは何を指し,その数は 何によって決まるか」という,本質的な理解に達して いるかを検証することとした。 実験群は,統制群の授業展開に加えて,「電子には 2 種類あること」,「2 種類の電子が対になっていれ ば安定すること」,「電子の入り方にはルールがある こと」を学習させることで,その知識をもとに「結合 の手」の考え方やその数を理解できるようになるか を検証するための授業展開を計画した。今回実践し た授業の流れは次の通りである。 統制群(①~⑦)実験群(➊~❾) 【導入】 ①➊本時の目的を説明する。 目的: 「原子の構造学習し,「結合の手」の正体を 突き止める」 ②❷ワークシート(図 2)を配布する。 【展開】 ③❸原子の構造を説明する。 1.原子は,+の電気をもつ原子核と,-の電気を もつ電子からできている。 2.原子核は,+の電気をもつ陽子と,電気をもた ない中性子からできている。 3.陽子と電子の数は元素によって決まっている。 4.ふつうの状態では,原子の中の陽子の数と電子 の数は等しく,原子全体としては電気的中性に なっている。 5.周期表の原子番号は原子核内の陽子の数を示 している。 ④❹ホワイトボードとラミネートシート,裏表に 色の異なるシール(黄色・青色)を貼った磁 石を班に配布する(図 3)。 ⑤青色のシールが貼られた面を上に向けて磁石を 使用することを伝える。 ❺黄色が上を向いている磁石と青色が上を向いて いる磁石を机上に並べさせ,そのような表裏の 関係に近い違いをもった電子が 2 種類存在して いることを説明する。 ❻黄色のシールを貼った磁石と,青色のシールを 貼った磁石は近くに置くと引っ付くことを確認 させ,電子もこの 2 種類がセット(対)になって いる状態が安定していることを説明する。 <留意点> ・同じ極に同じ色のシールを貼っておく。 ❼磁石を使って原子に含まれる電子が入っていく 順番があること説明する。

・原子番号1番は黄色,原子番号2番は青色を追 加する・・・という順番で入る。 ・原子番号3番は“黄色・青色・黄色”とはいる。 ・原子番号4番は“黄色・青色・黄色・青色”と はならずに,“黄色・青色・黄色・黄色”の順に 入る。原子番号 6 番までは黄色が増えていく。 ・原子番号 7 番からは青色が増えていき,原子番 号 7 番は“黄色・青色・黄色・黄色・黄色・黄 色・青色”となる。 ⑥ワークシートに,「陽子数」 「電子数」を書き込 み,モデルに電子を●(青色)で書き込ませる。 ❽ワークシートに,「陽子数」 「電子数」を書き込 み,モデルに電子を○(黄色),●(青色)で書き込 ませる。 <留意点> ※下線部は実験群のみ ・図中のモデルは同じ大きさに書かれているが, 実際の原子の大きさは異なっていることを説 明する。 ・黄色と青色のペンを準備させ,色を区別して記 入させる。 ⑦❾ワークシートをもとに,課題を考える。 課題: 「結合の手」の正体は何だと考えられるか。 <留意点> ・ラミネートシートと磁石,ワークシートをもと に班で話し合い,原子の構造と「結合の手」の関 係を考えさせる。 【まとめ】※下線部は実験群のみ ・ 「結合の手」の正体は原子に含まれている電子で あり,「結合の手」の数はその電子の数によって 決まる。 ・2 種類の電子が対になった状態が安定で,対にな れていない電子は不安定である。その対になれ ていない電子を「結合の手」と呼んでいる。 ・対になれていない電子の数は原子の種類によっ て異なる。そのため,「結合の手」の数は原子の 種類によって違っている。 ・貴ガスはすべての電子が対になっているので安 定した原子で,「結合の手」を持たない。 ・原子番号 11 以降の原子も似た決まりで電子が 入っていくため,原子番号が分かれば「結合の 手」の数も考えることができる。 6.授業後のアンケート 授業実践終了時に,実験群として授業を受けた生 徒(61 名)に対して質問紙によるアンケート調査を行 った。アンケートの質問項目は「授業は楽しかった

徒の感想の一部は以下のとおりである。 【生徒の感想(一部) 】  今まで疑問だった「なぜ貴ガスだけはそれだけで も安定できるのか?」ということの答えがわかっ た。図を見て考えることで法則が見やすかった。図 を見ることで「だからこうなるんだ」ということが, 図 2 生徒が使用したワークシート しっかり理解することができてスッキリした。 「実 際に自分で考えてみる」ということで,新しい発見 ができてとても楽しかった。  内容が少し難しく理解するのに時間がかかってし まったが,理解できたらすぐに分かって,内容もそ れほど難しいと感じなくなったのが少し嬉しかっ た。3〜12 族はどうなるんだろうと疑問に思った。 ホワイトボードを使って考えるとき,自分で考え て分かったときの達成感がすごかった。  結合の手の正体について,前のアンケートでは全 然答えることができなかったけど,今回の授業で 対になれていない電子が結合の手の正体だと分か 図 3 生徒が使用したラミネートシートと磁石 ることができました。最初はピンと来なかったけ する上での ですか?」,「授業の内容は理解できましたか?」, ど,ピンときたら,貴ガスは余っている電子はなく 「原子の構造について理解できましたか?」,「 「結 て全て対になっているから安定しているというこ 合の手」の正体を理解できましたか?」,「 「結合の とも分かったり,様々な学びを得ることができま 手」のが何によって決まるのか理解できましたか?」, した。原子の構造はとても複雑なものだと思って 「なぜ貴ガスは安定しているのか理解できました いたけど,分かるとシンプルなものなのかな?と か?」,「授業の内容は難しかったですか?」の 7 項 思うことができたので良かったなと思いました。 目で,それぞれについて 5 件法(1:そう思わない~5: そう思う)で回答させた。また,最後に授業の感想を 7.事後テストの結果 自由記述させた。 統制群の学級・実践群の学級を合わせた 115 名の それぞれの質問項目に関する選択番号を得点とし 生徒を対象に,次時の授業の最初に事後テストを実 て平均を算出し,その結果を表 3 にまとめた。 施した。 (1)は原子の種類は変えずに出題順のみを 表 3 アンケート調査結果の平均値

変更した。 (2),(3),(4)は実態調査問題と内容を 変更せずに行った。事後テストの問題(1)は以下の 通りである。 (1)次の原子がもつ「結合の手」の数を,それぞれ数 字で答えなさい。なお,元素記号の前に書かれて いる数字は原子番号を表しています。 ① 6C ② 13Al ③ 3Li ④ 18Ar ⑤ 9F 表3 より,最初の6 項目すべてで平均値が4 以上と ⑥ 2He ⑦ 16S ⑧ 20Ca ⑨ 7N なっており,多くの生徒が今回の授業を「楽しい」ま 統制群と実験群それぞれで,実態調査問題の結果 た「理解できた」と感じていることが確認できた。ま と事後テストの結果を比較した。 た,授業の難易度に関しては,中間値である 3 に近い (1)の「結合の手」の数に関する問題は実態調査 値になった。このことから,多くの生徒はこの授業に 問題と同様に,事後テストでの合計点(正答を 1 点, 関して特に難しいとは感じでいないことが示された。 誤答を 0 点とした)の平均値を出した (表 4・5)。 自由記述させた生徒の感想は,授業を通して発見で 実態調査問題の時の結果と事後テストの結果で t きたことや授業内容が理解できた喜びなど,肯定的 検定の両側検定を行ったところ,統制群では平均値 な意見ものがほとんどであった。記述されていた生 に有意な差が見られなかった。一方,実験群では平均

表 4 統制群における(1)合計点の平均値

表 5 実験群における(1)合計点の平均値

値に有意な差が見られた。 (2),(3),(4)についても,記述内容を実態調査 問題と同様の①~⑥に分類し,その結果を表 6・7 に まとめた。 統制群の生徒において,(2),(3),(4)の実態調 査問題の結果と事後テストの結果で差があるかどう かχ2 検定を行った結果,(2),(3)で優位な差が見 られた。また,実験群の生徒についても,同様にχ2 検 定を行った結果,(2),(3),(4)のすべてで優位な 差が見られた。 8.考察 統制群では,表 4 において学習の前後で(1)の「結 合の手」の数に関する問題の結果に優位な差を見ら れなかったことから,生徒は答えを導き出す手立て を学習の前後で習得できなかったと考えられる。よ って,生徒は原子の構造および原子モデルと周期表 の関連についての学習だけでは,「結合の手」は何を 指し,その数は何によって決まるかを本質的に理解 することができなかったことが示された。 表 6 統制群の記述内容の分類(人)

表 6 より(2),(3)の記述内容の分類において,学 習の前後に優位な差が見られている。(2)では,実態 調査問題で③に7割以上の生徒の考えが集中してい たが,事後テストではそれらの生徒が他に分散して いる。このことから,原子の構造および原子モデルと 周期表の関連のみでは,逆に生徒の理解に混乱を生 じさることが考えられる。また,(3)でも同じく生徒 が分散していることが確認できる。特に②と⑤,⑥が 多くなっており,学習を通して「結合の手」と電子の 関係性に気づけた生徒と,(2)と同様に混乱した生 徒に分かれる結果となったと考えられる。最後 に,(4)では優位な差が見られなかったことからも, 原子の構造および原子モデルと周期表の関連につい ての学習だけを行っても,生徒の本質的な理解には つながらないと考えられる。 一方,実験群では,表 5 において学習の前後で(1) の「結合の手」の数に関する問題に優位な差を見ら れた。これは,生徒が答えを導き出す手立てに学習の 前後で変化が生じたためだと考えられる。 このことは,表 6 の(2),(3),(4)の記述内容の分 類における学習前後の人数変化にも表れている。実 験群では,(2),(3),(4)すべてにおいて優位な差 が見られている。具体的には,(2),(3),(4) のべ てにおいて①,②に 6 割以上の生徒の記述内容が分 類されている。このことから,生徒は「結合の手」と 電子の関係をイメージすることができていること分 かる。 以上のことから,原子の構造および原子モデルと周 期表の関連に加えて,「電子には 2 種類あること」, 「2 種類の電子が対になっていれば安定すること」, 表 7 実験群の記述内容の分類(人)

「電子の入り方にはルールがあること」を学習する と,生徒はその知識をもとに「結合の手」の考え方を 本質的に理解できるようになると考えられる。 なお,実験群においても(2),(3),(4)の記述内容 が学習内容に沿っていないものとなっている生徒 (⑤に分類)や,全く記述できていない生徒(⑥に分 類)が一定数いた。これらの生徒の理解を促すために は,3 年生でイオンの学習に入る直前に,事前学習と して本実践の内容を再度行うなど,継続した学習を 行うことが必要であると考える。 9.まとめ 本実践では,フランスの教科書のようなシンプル な原子モデルを周期表と関連づけて学習するととも に,原子に含まれる電子には 2 種類あることとそれ らが対となって存在する必要性を学習することで, 「電子配置」を学習しなくても中学 2 年生が「結合 の手」の考え方を本質的に理解できるようになるか を検証した。その結果,以下のことが分かった。 (1) 原子の構造および原子モデルと周期表の関連づ けた学習だけでは,「結合の手」の考え方やその 数を本質的に理解することは難しく,逆に生徒 に混乱を生じさせてしまう可能性がある。 (2) 原子の構造および原子モデルと周期表の関連に 加えて,「電子には 2 種類あること」,「2 種類 の電子が対になっていれば安定すること」,「電 子の入り方にはルールがあること」について学 習すると,生徒はその知識をもとに「結合の手」 の考え方やその数を本質的に理解できるように なる。 以上のことから,本実践での学習展開は生徒が原 子の構造や原子のもつ「結合の手」を本質的に理解 する上で有効であると考える。また,この学習内容を 定着させることで,中学3年生で「電子配置」の学習 をしなくても,イオンの学習につなげることが可能 であると考える。 参考文献 文部科学省(2017)『 【理科編】中学校学習指導要領(平 成 29 年告示)解説』Retrieved from https://www.mext.go.jp/component/a_menu/edu cation/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2 019/03/18/1387018_005.pdf(accessed 2021.12.01) 引用文献 川﨑友紀子,福田幸司,宍野彰彦,粟田高明,寺島幸生

(2020)「理科教育授業における教材作成力の検 討 : 途上国での経験を活かして」 『鳴門教育大学 授業実践研究:授業改善をめざして』鳴門教育大 学編,第 19 巻,17-22 大矢禎一・鎌田正裕ほか 146 名(2021a)「未来へひろ がるサイエンス 2」株式会社 新興出版社啓林 館,159 大矢禎一・鎌田正裕ほか 146 名(2021b)「未来へひろ がるサイエンス 3」株式会社 新興出版社啓林 館,115-121 佐藤明子,高橋治,菊地洋一,村上 祐(2006)「イオン 学習の適時性:教科書の国際比較に基づいて」 『理 科教育学研究』第 46 巻,第 2 号,21-27 武井隆明,菊地洋一,菅原尚志,青井千明,大石祐司, 村上祐(2006)「人類はどのようにしてイオンを認 識してきたか:発見史からみたイオン学習」 『理科 教育学研究』第 46 巻,第 3 号,45-53 漆畑文哉,長根智洋,吉田淳(2014)「中学校理科「化学 変化とイオン」発展内容に関する高校生の学習経 験の調査」 『日本理科教育学会東海支部大会研究 発表要旨集』48 渡辺正(2020)「化学と物理学」 『大学の物理教育』第 26 巻,第 2 号,51-54

Proposal of a lesson model that introduces the concept of the lone pair to second year lower secondary school students Yoshiaki ICHIHASHI1 1Nara University of Education Lower Secondary School

SUMMARY Internationally, many countries learn continuously of the periodic table and atomic structure, but under the current Japanese curriculum guidelines, the periodic table is learned in the second grade of lower secondary school, and atomic structure is learned in the third grade of lower secondary school. Furthermore, textbooks tend to use the concept of "electron configuration," which is the subject of study in upper secondary school school chemistry, in the explanation of "bonding hands" and ions. It has been pointed out that those method is problematic to lower secondary school students, and I consider that a different learning approach is needed. Therefore, I verified whether second year lower secondary school students will be able to understand the concept of "bonding hands", if they learn relation to the atomic model and the periodic table, in addition the lone pair, without learning "electron configuration". As a result, I found that it is difficult for students to understand the concept of "bonding hands" the only by learning the atomic model in addition relation to the periodic table and atomic structure, the contrary it may cause confusion to the students. On the other hand, to the relationship between the structure of an atom, atomic models, and the periodic table, students will learn that there are two types of electrons and that two types of electrons are stable when paired. Furthermore, it was found that if students learn that there are rules for how electrons enter, they will be able to essentially understand the concept of "bonding hands" based on that knowledge. Based on the above, I consider that the learning process in this practice is effective in helping students understand the structure of atoms and the "bonding hands" of atoms in essence. Atom, Molecule, Bonding hands, Electron configuration, Lone pair

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